じまんする相手がいなくて、すっかりさみしくなってしまったピョンちゃんは、近くの川岸に座り込みました。
ぼーっと川の流れを眺めていると、なんだかとっても眠くなってきます。うとうとしているうちに、ピョンちゃんはいつの間にか眠ってしまいました。
さて、翌朝。
目を覚ましたピョンちゃんは、目の前の川をのぞきこんでおどろきました。
「見たことのない動物が川の中にいる…!」
ピョンちゃんが目にしたのは、ウサギの耳の横にシカの角が生え、そのまわりにはライオンのタテガミ。体は白くもこもことしたヒツジのようで、しっぽにはクジャクのようなカラフルな羽根を生やした動物でした。
ですがよくよく見れば、それはどうやら川の水に映っているだけ。そして川をのぞき込んでいるのは、他でもないピョンちゃんです。
「あれ?わたしは…だれだっけ?」
ピョンちゃんはその見覚えのない姿に、思わず首をかしげました。
慌てて顔の周りを触ります。
「ライオン…?それとも、シカ…?」
自分の体をなでてみます。
「ひつじ?…クジャク?」
川に映る姿をもう一度のぞきこんでみますが、やはりそこに映る動物はみたことのない姿。何だか怖くなってしまったピョンちゃんは思わず走り出しました。
森の奥でウシさん達が草を食べています。
ピョンちゃんは近寄り、ウシさんにたずねてみました。
「ウシさん、ウシさん。わたしがだれか、教えてもらえない?」
ウシさんは「うう~~ん」と考え込みましたが、「さぁ、知らないなぁ」と答えました。
困ってしまったピョンちゃん。今度は同じタテガミを持つライオンくんの所へ行きました。
「ライオンくん、ライオンくん、わたしは、あなたの仲間なの?」
ライオンくんはピョンちゃんをチラリと見ましたが、「いや、知らないなぁ」と去って行ってしまいます。
その後も、いろいろな動物にたずねてみたのですが…どうしたことか、だれ一人ピョンちゃんを知らないと言うのです。
ピョンちゃんはいよいよ心細くなってきてしまいました。
とぼとぼと歩いていると、今度はウサギちゃんたちが通りかかりました。
ピョンちゃんは慌てて声をかけます。
「わたしがだれなのか知りませんか?」
ところが、ぴょんぴょんと元気に飛んで行くウサギちゃんたちは、ピョンちゃんの声に気が付きません。
「待って!!」ピョンちゃんは思わず川を渡るウサギちゃんたちを追いかけました。思い切り後ろ足で地をけって…その時です。
バッチャーン!!
足をすべらせたピョンちゃんは勢いよく川に落ちてしまいました。
その音にびっくりしたウサギちゃんたちが振り返って川のほとりに駆け寄ります。
ピョンちゃんは手足をバタつかせてなんとか岸にたどり着きました。どうやら、泳げる動物でないのはたしかなようです。
「誰かと思えば、ピョンちゃん。どこに行ってたんだい?」
ウサギちゃんにそう言われ、ピョンちゃんはハッとして自分の体をさわってみました。
川に落ちたしょうげきで、タテガミも、ツノも、羽根も、ふわふわも全部取れて、すっかり元のウサギの姿に戻っていました。
「そうだ!わたしはウサギのピョンちゃんだ。いったい今まで何をやってたんだろう」
ようやく何もかも思い出したピョンちゃん。ほっと胸をなでおろし、仲間といっしょにイチゴつみに出かけました。
イチゴの花でかんむりを作ると、仲間はみんな「やっぱりピョンちゃんはオシャレだね」とほめてくれました。
それがなんだかいつもよりもうれしく感じたピョンちゃんは、はにかんで「ありがとう」と答えます。
それからというもの、ピョンちゃんは、人にほめられるだけではなく、人をほめるのも大好きになりました。
おや?向こうからやって来る、あの立派なタテガミはライオンくんです。
ピョンちゃんはライオンくんに向かってニッコリほほえみました。
「ライオンくん、今日もカッコイイね!」