ケンとのけんかから一週間。今日はハロウィンの当日。

 一緒に参加するはずだったケンの姿があるはずもなく、僕は仲が良いわけでもないクラスメイトと一緒にハロウィンの仮装をしていた。けれど、とても楽しいお祭りの気分にはなれない。

 教室から校庭を眺めると、みんなで飾り付けたカボチャのランタンが並んでいる。

僕はぼーっとその様子を眺めていて、ふとある物に目を止めた。

大きなカボチャのオブジェに隠れるようにして1人の男の子が立っている。その姿には見覚えがあった。

(ケンだ!!)

 僕は思わず駆け出した。ケンは、いつも通りの格好で、本当に仮装もせずに来ていた。

「ケン!!どうしてここに…」

 息を切らせながらたずねると、ケンは小さく笑った。

「俺が一緒だと楽しい、って言ったのはレンだろ?だから、2人で楽しもうと思って、来たんだ。」

「でも、そんな恰好じゃ、追い出されるよ?」

「平気だ。言っただろ?俺はオバケだからさ。」

「まだそんなこと言ってるの…」

 僕は半分呆れながら、だけどケンが会いに来てくれたことは本当に嬉しかった。

「ケン、ごめんね、あの時、怒ったりして。」

「いいよ。レンは俺のためにってわざわざ用意してくれたんだもんな。俺の方こそ、悪かったよ。」

 僕たちはしっかりと握手をして、仲直りした。

 ケンがこの学校の生徒ではないことがバレてしまうのではないかとひやひやしてたけど、にぎやかなお祭り騒ぎの中で誰も気にしていないようだ。

 僕たちは2人でお祭りを思い切り楽しんだ。ケンと一緒にいると何だかとにかく楽しくて、気付けばクラスの仲間とも自然に笑いあっている自分がいた。

 そして、間もなくハロウィンのイベントも終わるころ…

「レン、お祭りは楽しんでる?」

 優しく声を掛けられ、振り向く。

「母さん、父さん!」

 そこに立っていたのは僕の両親。今日はお祭りだから、生徒の家族は参加が許可されている。2人は手にお菓子をたくさん持っていた。

「トリック、オア、トリート!」

 僕はケンと声を揃えてお決まり文句を言った。

 すると、父さんも母さんも突然ビックリしたような顔をして、顔を見合わせた。

「どうしたの?イベントの内容は知っているでしょ?」

 不思議に思ってそうたずねると

「レン、その隣の子は誰?」

 母さんにそう聞かれる。

「こいつは、ケン。僕の一番の友達だよ。」

 僕は自慢げにケンを紹介するけれど、2人とも変な顔をしている。

「ケン…?ケンくんなの?」

「まさか、だって、その姿は…」

 母さんも父さんも、よく分からないことを言う。

「おじさん、おばさん、大人なのに、俺が見えるの?」

「ケン、何言ってるの?」

 ケンまでよく分からないことを言い出して、僕は混乱してしまう。

「言っただろ。俺はオバケだって。大人には僕の姿は見えない。子供だって、見える奴は珍しいんだぜ。」

「ウソだろ?君は本当にオバケなの?」

「だから、ずっとそう言ってる。」

 それにしたって、母さんと父さんの様子は変だ。母さんなんか、突然泣き出してしまった。

 僕は慌てて母さんに駆け寄る。見上げると、母さんを支える父さんも泣きだしろうな顔をしていた。

「俺のことを、知っているの?」

 ケンが小さくたずねる。

 父さんが強く頷いた。

「ケン、お前が死んでから、もう20年が経ったんだ。覚えているか?俺は、テツヤだよ。」

その言葉にケンが大きく目を見開いた。

「テツヤとマリ、なのか…?20年…?そんなに経っていたなんて…レンは、2人の、子どもだったのか…」

「どういうこと?」

 わけがわからずに3人を見渡していると、父さんがぽつりと言った。

「ケンは、父さんと母さんの幼馴染なんだ。そして、20年前に自宅が火事に遭って、命を落としてしまった…」

「そう。俺はあまりに突然の死を受け入れられなくて、こうして今もさまよっている。」

ケンがそう言って僕を見る。

 出会った日のケンの手を思い出した。ケンの手はススのような汚れがたくさんついていた。あれは、火事に遭ったからだったんだ…

「だけど、レン、君と一緒にいたら、とても楽しかったんだ。まさかテツヤとマリの子どもだったなんて。何だか、幸せだよ。今なら成仏できる気がする…」

 そう言って笑うケンの姿が少しずつ透き通っていく。

「待ってよ、ケン!そんなの自分勝手だ。僕を1人にしないでよ!オバケでも何でもいい。君ともっと遊びたいんだ!!」

 僕はケンに消えて欲しくなくて必死にすがりつくけれど、ケンの姿はどんどん薄くなっていく。

「レン…」

 母さんは涙を瞳いっぱいにためながら、僕を抱きしめる。

「ケン!ケンが消えちゃう…!」

「レン、またいつか、会おうな!」

 ケンの姿はもうほとんど見えない。けれど、ケンが完全に姿を消したその瞬間に一筋の光が生まれて宙を舞い、母さんのお腹へ吸い込まれるようにして消えた。

「ケン…?」

 僕と父さん、母さんは顔を見合わせた。

 

 それから数週間後。

 母さんのお腹には、僕の弟がいることが分かった。

 生まれる前から僕は弟を「ケン」と呼んでいる。

 

 ハロウィンにはオバケがやってくる。本当はそれを追い返すために仮装をするんだけど、僕はどうやらやってきたオバケと仲良くなってしまったみたいだ。

 

 そう、これは、僕と親友の、忘れられない物語。

 僕の親友であり、大好きな弟の、物語。

 

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