第7話 西の祠


○時代劇のような建物が並ぶ町並み。ただし屋根や橋などが妙にカラフル


 常盤の診察を終えて色染国へ戻ってくると、常盤は、城へ帰る前に行きたい場所がある、といって私を連れて町の外れへ向かった。


○陽のあまりあたらない祠の入り口


 常盤に連れられてたどり着いたのは、町の喧騒の届かない祠だった。


@萌黄

「ここは・・・?」


@常盤

「西の祠。人々が近寄らぬ場所じゃ。」


 そう聞いて、ふと紅の「西の祠には近づかぬよう」という言葉を思い出した。

 常盤は、私の手を引いてずかずかと祠の中へと入っていく。


○暗くじめじめとした祠の内部


 少し歩いて行くと、突然薄暗く狭かった道が開けた。


@萌黄

「これは・・・」


○祠の中に作られた部屋。たくさんの布団が敷き詰められている。


 そこは、まるで戦時中の病院を思わせるような部屋になっており、多くの人の姿があった。

 いくつもの布団が並び、寝ている人、何かを食べている人・・・


@祠の住人

「常盤様!久しゅうございます。」


@常盤

「うむ。なかなか顔を出せず、すまぬな。」


 まるでこの人たちを良く知っているかのような口ぶり。


@萌黄

「常盤、この人達は・・・?」


@常盤

「ここは、病床の祠、と呼ばれておってな。重い病にかかり、治療法が分からなくなった者たちが隔離されておる。」


@萌黄

「隔離、って・・・このままずっとここで生活しろってこと?」


@常盤

「そうじゃ。原因も分からず、治療法も分からぬ。人に伝染するかもしれぬ。その恐怖を少しでも遠ざけようと、この場所が作られた。そして月に一度、まじない師が厄払いに来るのじゃ。」


@萌黄

「それが、近づいてはいけない理由・・・」


@紅

「その通りです。これ以上、広がってもらっては困りますもの。」


 後ろから突然紅の声が響いて慌てて振り返る。


@常盤

「紅・・・」


@萌黄

「どうしてここに?」


@常盤

「やはりおぬしもここへ通っておったのじゃな・・・ここに、父君がおると聞いたぞ。」


 常盤の言葉に驚いて紅を見ると、紅は目を伏せた。


@紅

「私だけではありません。城の娘たちの中にも、家族がここで生活をしている者が何人かおります。ですから、こうしてたまに訪れ、城の食料や消耗品を運んでいるのです。」


@萌黄

「そうだったの・・・」


@紅

「それより、常盤様。国へ帰っておいでなら、なぜまっすぐ城へ戻らないのです。皆、心配しております。」


@常盤

「うむ、それなんじゃがな、紅。わしは、他国で素晴らしい情報を手に入れたのじゃ。」


 常盤は嬉しそうにそう言って、懐からさきほど処方された薬を取り出した。


@常盤

「紅だけではない、ここの者皆、聞くのじゃ。わしは他国へ渡り、この国で治せぬはずの病を、治せるという者に出逢った!そしてこの薬をもらったのじゃ。ここにいる者の病も、治るかもしれぬぞ!」


 しんと静まり返り、常盤の話を聞いていた祠の人々がどよめき立つ。


@紅

「常盤様の病が、治る・・・?そんな、そんなことが可能なのですか??」


 紅が常盤に詰め寄る。

 いつも冷静に見えた紅の目に涙が光っていた。


@常盤

「これは誠じゃ。良いか、我が国は外交をしておらぬ。そのために医療が遅れておるのじゃ。他の国にとってはとうに治療法の見つかっている病が、この国では死の病。国を開けば、多くの命が助かる。」


@祠の人

「つまり、外交をするということか・・・」


@祠の人

「でも、もっと悪い病が入っていたら・・・?」


@祠の人

「なんでもいい!早く家に帰りたいんだ!治療して下さい!!」


 人々が口々に言う


@常盤

「紅、これでもまだ外交を認めてはもらえぬだろうか?」


@紅

「常盤様・・・・帰って、城の者に、そして国中に伝えましょう。病に苦しむものは今も増えているのです。」


@萌黄

「じゃあ・・・!」


@紅

「決めるのは私ではなく、国の者たち。反対の意見も中にはあるでしょう。ですが、今この国の一番の恐怖の根源は病です。外交は、実現すると思いますわ。」


 そう静かに言うと、紅は私の方を向き、突然深く頭を下げた。


@紅

「萌黄様・・・誠に、ありがとうございます。まさか本当に、常盤様を救う手立てを見つけて下さるとは・・・なんとお礼を伝えたらよいのか。」


@萌黄

「そんな・・・私も確信があったわけじゃないのに、無理やり病気の常盤を連れ出したわけだし・・・でも、本当に良かった・・・」


@紅

「常盤様、これで念願の他国との外交も叶いましょう。お約束通り、萌黄様との結婚を認めることとしますわ。」


@萌黄

「え・・・それは・・・」


 慌てて反論しようとすると、それより早く常盤が口を開いた。


@常盤

「いや、それはもう良いのじゃ。」


@萌黄

「常盤・・・?」


@常盤

「わしは、外交をするために萌黄を妻にしようとしておった。それなのにこやつは、そんな身勝手なわしのために、必死になってくれる。こんなに優しく、心の美しい娘を無理やり妻に娶ることなど、もはや出来ぬ。」


@紅

「では・・・城の娘のいずれかを、妻に?」


@常盤

「そのつもりも無い。わしの病が治ると分かった今、まずは治療に専念してよいかの?わしの婚姻については、それからでもよかろう。」


 紅は、「そうですか」と頷く。

 私は、もう「妻になれ」とは言われないのだと安心するのと同時に、胸の奥がズキリと鈍く痛むのを感じた。


メモ: * は入力必須項目です