第6話 希望の旅


○近代的な町並み(現代の日本のような街)


 常盤が倒れてから3日ほどが経ち、常盤の体調がひとまず落ち着いたこの日、私は常盤を連れて花染国より北にある、外交の盛んな国へやって来ていた。


@常盤

「萌黄・・・おぬしも意外とやりおるの。あの紅を説き伏せてしまうなどと。」


@萌黄

「だって・・・どうしても常盤を花染国から連れ出す必要があったから・・・」


 常盤を連れて、他の国へ行きたいと報告すると、当然紅には猛反対された。

それでも私は、常盤の療養のために必要だと主張し、かなり強引に連れ出したのだ。


@萌黄

「常盤、今は体調は大丈夫?」


@常盤

「うむ。心配はいらぬ。一度症状が落ち着けば数日は元気じゃからの。」


 そう答える常盤は、確かに数日前に床に伏せていたとは思えないほど元気そうに見える。


@常盤

「しかし・・・そこまでして、わしをどこへ連れて行くのじゃ?」


@萌黄

「着いた!ここだ・・・腕のいいお医者さんのいる診療所。」


○小さな診療所の前


 私たちはゆっくりとその扉を開ける。


@常盤

「たのもう!!」


@萌黄

「常盤・・・そんな入り方しなくても大丈夫だよ・・・」


@医師

「こんにちは。どうされましたか?」


 中へ入ると、優しそうな中年の医師が迎えてくれた。


@萌黄

「あの、この人を診察してほしいんです・・・何か重い病気のようで。」


 そう言って常盤の背中を押して医師の前に立たせると、医師は優しく頷き、奥の部屋へと案内する。


○清潔そうな診察室


@医師

「なるほどね・・・」


 医師は一通り常盤の体を診察すると、机の上のカルテやレントゲン写真を見ながら口を開いた。


@萌黄

「どうでしょうか・・・?」


@常盤

「一体何が起こっているのじゃ??そうもわしの体を触って、何か良いことがあるのか?」


 常盤は落ち着かなそうに周りを見回している。


@医師

「心配はありません。適切に処置すれば彼の病は完治するでしょう。」


@萌黄

「本当ですか!?」


@常盤

「なんじゃと・・・?」


 私と常盤は思わず顔を見合わせる。

 常盤は信じられないといった表情だ。


@常盤

「わしは、不治の病ではなかったのか・・・?」


@医師

「あなた方がどちらからいらしたのかは分かりませんが、この病が不治の病と言われたのはずいぶん昔の話です。勿論、発見が遅れたり、治療を行わなければ死に至る病ではありますが、今ではそんなに怖がるほどの病気ではないのですよ。」


 落ち着いた医師の言葉に、安堵する。

 常盤はまだ何が起きたのか分からないといった表情で私と医師を交互に見ている。


@萌黄

「良かった・・・良かったね、常盤!!」


 私と常盤は、医師から薬と注意事項を聞き、診療所を出た。


○近代的な町並み(現代の日本のような街)


@常盤

「萌黄、一体これは、どうなっておるのじゃ?わしは今・・・夢をみておるのか?それともあの男は狐で、わしをだまそうとしておるのか?」


@萌黄

「落ち着いて、常盤。夢じゃない。騙されてもいない。花染国は、外交をしていないと言ったでしょう?発展の遅れている国に疫病が流行るのはよくあることなんだけど、どうしてか、分かる?」


@常盤

「医療が疫病に対応していないからということか・・・?」


@萌黄

「そう。確信があったわけじゃないんだけど、常盤の病気も、医療の発展した国では何とかしてもらえるんじゃないかって、そう思って。」


@常盤

「なんと!!おぬしは、なんと賢いおなごじゃ・・・」


 そう言って、常盤は私を抱き寄せると、大きな体で包み込んだ。


@萌黄

「常盤・・・苦しいよ。」


 ぎゅっ、と力がこもった常盤の腕の中で少し身をよじる。


@常盤

「・・・誠におぬしには驚かされる・・・わしは、自分の命はもう間もなく尽きるものだと思って諦めておった。・・・萌黄は、命の恩人じゃ・・・」


@萌黄

「常盤・・・」


 常盤の体は小さく震えていた。泣いているのかもしれない。

 私はぎゅっと常盤を抱きしめ返す。


@萌黄

「私、常盤が突然倒れて、死んじゃうかもしれないなんて聞かされて、ショックだったし、信じられなかった。でも・・・信じなくて良かった。常盤には、元気に笑っていてほしい。弱ってる常盤なんて、らしくないよ。」


 そう言いながらも常盤の体温を全身で感じて、張り詰めていた何かがプツリと切れ、涙があふれてきた。


@常盤

「萌黄・・・?なぜ、おぬしが泣いておる。」


 それに気付いた常盤が慌てて私の頬を拭う。


@萌黄

「嬉しくて。常盤の病が治るって分かったことも、常盤の役に立てたことも・・・」


@常盤

「おぬしは・・・どこまで優しい娘じゃ。嬉しい時は笑え。泣くでない。・・・わしは、おなごの涙は苦手じゃ・・・」


 そういう常盤の目も赤いのに、オロオロと私を慰めようとする様子が何だかおかしくて、 妙に愛おしくて、私は思わず笑ってしまった。

 それを見た常盤も笑う。

私たちは体をくっつけたまま、泣き笑いのような変な顔で見つめ合っていた。


@常盤

「萌黄・・・おぬしには、どれだけ礼を言っても足りぬ。わしは・・・おぬしと出逢えて幸せじゃ。こんなに心から笑えたのは、随分久しぶりな気がする。」


 耳元で静かにつぶやく常盤の声は、私の心の奥の方まで響いてくるようだった。


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