第5話 王子の病


○美しい花の活けられた広い和室 


 突然倒れた常盤を手際よく運んだのは、城の護衛役で紅に常盤の尾行を頼まれていたという男だった。

 城に到着するとすぐに常盤は寝室に運ばれ、城専属の医者の指示で薬を飲んだのだが、そこに睡眠薬でも入っていたのか、ほどなくして規則正しい寝息が聞こえてきた。


 横たわる常盤を囲むようにして、私と紅が付き添うことになった。


@紅

「こんなこともあろうかと、黒子(クロコ)に尾行させて正解でしたね。妙に慌てて出掛けられたと思ったら・・・この有様。」


@萌黄

「あの、常盤は、以前からどこか悪いんですか?」


@紅

「常盤様から、何も聞いていないのですね。」


@萌黄

「はい・・・」


@紅

「流行り病というやつです。明確な治療法の分からない病気。今この国では常盤様と同じ病状で苦しんでいる方が何人もいます。」


@萌黄

「治療法が分からない、って・・・治らないってことですか?」


@紅

「そう。そして、症状が進めば死に至る病。」


@萌黄

「!!」


 息を飲んだ。

 さっきまで一緒に笑っていたのに。

 あんなに元気な常盤がそんな重い病を抱えているなんて、思いたくなかった。


@女性の声

「紅様、常盤様が倒れられたと聞きました!」


 戸の向こうから、女性の声が響いた。

 紅は静かに戸を開ける。

そこには、先日の美しい女性達がずらりと並んでいた。


@緑の着物の女

「紅様、そこの女、常盤様の妻として認めたわけではございませんよね?」


 私の姿を見て、女性達が口々に口を開く。


@青い着物の女

「聞けば、その女、花染国の人間ではないそうですね。」


@赤い着物の女

「そのような女、常盤様の妻には相応しくありませんわ。」


@萌黄

「え・・・?」

(常盤が倒れたって言うのに、この人たち、常盤の体の心配はしないの??)


@黄色の着物の女

「常盤様の体調が悪くならないうちに、正式な相手を決めていただきたいのです!」


@萌黄

「ちょっと・・・!常盤が具合が悪くて休んでいるのに、どうして今そんな話をするの??今は常盤の体調が一番大事でしょ?常盤が元気になってから、本人に聞けばいいじゃない」


 どうしても納得がいかず、思わず反論すると、女達はいぶかしげに私を見た。


@赤い着物の女

「こんな時だから、話しているんですわ。もしこのまま常盤様がお目ざめにならなかったら、選んでいただけませんもの。それは困ります。」


@萌黄

「なっ・・・!!」


@常盤

「萌黄、良いのじゃ。」


 思わず怒りがこみ上げた私を制するように、常盤の熱くて大きな手が私の手を掴んだ。


@萌黄

「常盤!!」


@紅&女達

「常盤様!!」


 いつの間にか、常盤は目を開けていた。


@常盤

「すまんが、少し萌黄と2人だけにしてくれぬか。あまり大勢で話されては頭に響くのじゃ。」


 静かにそう言う常盤に、紅は頷き、女達を連れて部屋から離れて行った。


 部屋には私と、横たわる常盤の2人きり。


@萌黄

「常盤・・・大丈夫?」


@常盤

「先ほどの会話、すべて聞こえておった。・・・萌黄。おぬしは、優しい娘じゃの。」


@萌黄

「何言ってるの・・・常盤が倒れてるのに、心配しない方がおかしいでしょ?それなのにあんな話ばかりするなんて・・・あれじゃあ、選んでさえもらえれば常盤はどうでもいいみたいに聞こえるじゃない。」


@常盤

「ふむ・・・そうじゃな・・・。あの娘達にとっては、わしの地位が必要なだけじゃからな。致し方あるまい。」


@萌黄

「そんな・・・!」


@常盤

「あやつらは、それが正しいと教えられて育ってきたのじゃ。王の妻となれば地位を得られる。裕福になれる。それがこの世で一番の幸せなのだと。・・・可哀相なことじゃ。」


@萌黄

「・・・だから常盤は、あんなに綺麗な人がたくさんいるのに、選ばないでいるの?」


@常盤

「そうじゃの。それから、わしはこの国をもっと開かれた国へ変えたい。そのために、他国の娘を妻にと考えておった。」


@萌黄

(やっぱり・・・そのために私を妻にするって言ったんだ。・・・当たり前だよね)


 何となく寂しい気持ちになる。

 すると、常盤はゆっくりと体を起して、私の両手をぎゅっと握った。


@常盤

「わしも、あの娘達と同じ。結婚というものを、自分の望みを叶える為の手段として考えておったのじゃ。・・・しかし」


 覗き込むように常盤が私を見つめる。

 まっすぐな瞳に射抜かれて、心臓が飛び跳ねた。


@常盤

「おぬしは、心まで美しい・・・萌黄、開国のためではなく、わしは自分の感情としておぬしを欲しいと、そう思い始めておる。・・・惚れてしまいそうじゃ。」


 いつもの常盤とは違う、掠れたような静かな低い声。

 見つめられる瞳にも熱を帯びていてドキドキせずにはいられない。


@萌黄

「・・・えっと・・・」


 何と答えたらいいのか戸惑っていると、常盤はさらに言葉を紡ぐ。


@常盤

「しかし、さきほど紅が話したように、わしの命は恐らく、そう長くはない。おぬしが、あの娘達のように、わしの体など気にしないのならば、どんな手段を使ってでも妻にしようと思っておったが、おぬしは、優しい。こんなわしのことを本気で心配しておる。・・・なればこそわしは、おぬしのそばにはいられぬ。・・・無理に妻にするなどと、言って悪かったの。」


@萌黄

「え・・・ちょっと待って!妻になる、とは言えないけど、でもそんな一方的に突き放さないでよ。そんな勝手なの、許さない。」


@常盤

「萌黄・・・」


 私はふと、あることを思いついた。


@萌黄

「常盤、私のことを信じることが出来る?・・・もし、私を信じられるのなら、少し付き合ってほしいことがある。」


 常盤は大きく目を見開く。


@常盤

「うむ・・・信じよう。萌黄、おぬしの言葉を。」


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