第2話 常盤色の着物


○美しい掛け軸が掛かっているきらびやかな和室 


 常盤に着物の注文をしてもらってから3日。

 完成した着物を取りに来るよう言われた私は、花染国の城へ案内され、その一室で常盤を待っていた。


@常盤

「萌黄!!よう来てくれた。会いたかったぞ!!」


 勢いよく戸を開けて常盤が駆けこんできた。


 手には大事そうに和紙に包まれた物・・・着物と思われる物を持っている。 


@常盤

「さぁ、おぬしのために仕立てさせた着物じゃ。さっそく着てみてくれるか。」


 常盤はそう言って、私の前に正座すると、いそいそとその和紙を開ける。


@萌黄

「わ・・・!!絵で見たより綺麗・・・」


@常盤

「そうであろう!!何といっても『常盤色』じゃからの。」


 自信たっぷりに言って笑う常盤につられて私も思わず笑ってしまう。


@常盤

「さぁ萌黄、着て見せるのじゃ。よし、わしが着せてやろう。脱ぐがよい。」


@萌黄

「・・・え?」


 唐突でためらいのない常盤の言葉に、固まってしまう。

 常盤は何の悪びれもなくにこにこと私を見ている。


@常盤

「どうしたのじゃ?脱がねば、着せられぬではないか。」


@萌黄

「えぇ!?無理無理!なんで常盤が着せるの!?」


@常盤

「何を言う。わしはいずれ夫となる男じゃ。そう恥ずかしがらぬとも良いではないか。」


 そう言って私の服に手を掛けようとする常盤を、必死に止める。


@萌黄

「ちょっと待って!!まだ結婚するなんて言ってないし!脱げるわけないでしょ!!」


@常盤

「ふむ・・・。そうか、残念じゃが仕方がないの。恥じらいのあるおなごは嫌いではないぞ。」


 しぶしぶ納得したらしい常盤にほっと胸をなでおろす。


@常盤

「では女官に着付けを頼んでおこう。わしは部屋の前で待たせてもらうからの。」


 そう言い残すと常盤は部屋を出て行った。

 かわりに常盤が呼んだらしい女官がすぐに現れ、手際良く私に着物を着せてくれる。


 それからほどなくしてー・・・


@常盤

「萌黄、もう良いか??」


 戸の向こうから、待ちきれない、といった様子の常盤の声が響く。


@萌黄

「う、うん。もう大丈夫・・・」


 そう返事をすると、ゆっくりと戸が開けられて、常盤が顔をのぞかせた。


@常盤

「おぉ・・・!」


 着替えを終えた私の姿を見て、常盤が目を見開く。


@萌黄

「どうかな・・・?」


@常盤

「思った通り、いや、思った以上じゃ!萌黄、よう似合っておる。美しいぞ。」


 常盤は嬉しそうに駆け寄ると私の両手を握る。


@萌黄

「あ、ありがとう・・・」


 そのあまりの勢いに気圧され、たじろいでしまう。


@常盤

「おぬし、まだ自分の姿を確認しておらんじゃろう?しかと見るがよい。」


 そう言うと、常盤は部屋の隅にあった大きな鏡を私に向けた。


@萌黄

「あ・・・」


 思わず息を飲む。

 そこに映っていたのは、自分とは思えないほど上品に着物を着こなした女性。

 女官が化粧も施してくれたため、顔つきさえも違って見える。


@常盤

「美しいじゃろう?やはりわしの目に狂いはなかったようじゃ。わしの妻にふさわしい。」


@萌黄

「また、勝手にそんなこと・・・」


 常盤の言葉を否定しようとした、その時。


 バタバタバタッ


 突然、廊下を慌ただしく走るような激しい足音が聞こえてきた。


@萌黄

「・・・なんの音・・・?」


@常盤

「む・・・」


 常盤の顔が歪む。

 次の瞬間


 バタンッ


 大きな音と共に、私たちのいた部屋の戸が勢いよく開かれた。


@美しい女達

「常盤様っ!!」


 そこに立っていたのは、とても美しい女性・・・達。

 1人ではない。開けられた戸の向こう側に、ずらりと美しい女性が並んでいる。

 その表情はみな一様に怒っているように見えた。


@常盤

「なんじゃ、騒々しい。おなごがバタバタと音を立てて歩くでない。みっともないぞ。」


 常盤は面倒くさそうに言うと、私を守るように私の前に立ち、女性たちに向き合う。


@赤い着物の女

「常盤様、女を連れ込んだというのは本当ですか!?」


@青い着物の女

「私たちがいるというのに、なぜですの??」


@紫の着物の女

「どれほど美しい女人なのか、見せて下さいませ!」


 美しい女性たちが口々に叫ぶ。


@萌黄

(連れ込んだ女って・・・私のこと!?)


@萌黄

「あの、常盤・・・」


 何が起きているのか分からず、怖くなって常盤の背中に声をかけると、常盤は「心配するでない」と微笑む。


@常盤

「そうも見たいのなら見るがよい。わしの妻となる予定のおなごじゃからの。美しかろう。」


 そう言うと、常盤は女性達に私の姿が見えるように立ち位置をずらし、私の後ろに立つと、ごく自然なしぐさで後ろから私の肩を抱いた。


@萌黄

「えっ・・・ちょっと、常盤??」


@女性達

「なんですって!!」


 私は常盤に反論しようと口を開きかけたが、それよりも早く女性達が叫んだ。


@萌黄

「え・・・。」


 そのあまりの剣幕に、私は開きかけた口を閉じることも忘れて顔をひきつらせた。


@萌黄

(一体・・・何が起きてるの??)


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