第1話 時代錯誤な王子


○明るい日差しの湖畔


 眠りから目覚め、私の前に現れた王子は、今まで見た王子とは少し違っていた。


@常盤(ときわ)

「おぬしが、わしを目覚めさせた者か?」


@萌黄(主人公)

「は、はい・・・」


@常盤

「ふむ。もう少し近う寄らんか。」


 そう言われ、恐る恐る近づく。

 そばによると、お香だろうか、清潔感のある爽やかな香りが王子から漂う。


 その王子は、一言で言うと時代錯誤な姿をしていた。

長く美しい黒髪を一つにまとめ、背は高く、黒い瞳は大きく、眉目秀麗という言葉がよく似合う端正な顔立ち。

 ただ、その服装はまるで・・歴史の教科書に載っている、平安貴族。

 喋り口調もどこかの時代劇のお殿様のようだ。


@萌黄

(なんだか、昔話から飛び出て来た王子様みたい・・・)


王子は、じろじろと私の頭から足先までを眺めている。


@萌黄

「あ、あの・・・?」


 その視線がどうにも落ち着かなくて、王子を見つめ返す。


@常盤

「ふむ。おぬし、名を何という。」


@萌黄

「萌黄、といいます。」


@常盤

「萌黄、とな。良い名じゃ。わしは『常盤(トキワ)』と申す。」


 そういうと、常盤はにこっ、と人のよさそうな顔で笑う。

 どこか安心感を覚えるような人懐っこい笑顔にドキッとした、次の瞬間、急にぐっと距離を詰められる。


@萌黄

「えっ・・・」


 突然至近距離に迫った端正な顔立ちにどぎまぎしていると、常盤は目を細めて艶っぽく私を見つめた。


@常盤

「良い目をしておる。器量も悪くない。・・・おぬし、わしを目覚めさせたお礼として、わしの妻にしてやろう。」


@萌黄

「つ・・・妻!?」


@常盤

「そうじゃ。喜んで良いのだぞ。」


@萌黄

「冗談・・・!いきなり初対面で、妻にするなんて言われて、喜べるわけないでしょ!」


 あまりに急な提案に、驚いて常盤から離れる。

 常盤は、心底不思議そうに首を傾げている。


@常盤

「なんじゃ、その反応は。一国の王が、妻にしてやると言うておるに、なにが不満なんじゃ?」


@萌黄

「不満も何も、そんな一方的な事言われて、納得できるわけないじゃない。」


@常盤

「ふむ・・・そうか、照れているのじゃな。良い良い。おなごはそのくらいが可愛いというものじゃ。」


 常盤は、私の言っていることを聞いていないのか、勝手に納得して頷いている。


@萌黄

(何てポジティブで変な王子なの・・・)


@常盤

「ではまず、わしの国へ案内するとしよう。さあ萌黄、わしの手を取れ。」


 どこまでも明るく強引なその態度に気圧され、言われるままに差し出された常盤の大きな手を取った。、


○時代劇のような建物が並ぶ町並み。ただし屋根や橋などが妙にカラフル


 常盤に連れられてやってきたのは、常盤の出で立ちにぴったりな雰囲気の、時代劇のセットの中に迷い込んだような景色の町並み。

 ただ、違和感を感じるのは、建物の全てが妙に色鮮やかということだった。


@萌黄

(なんだか、おもちゃのお家が並んでるみたい・・・)


@常盤

「美しい国じゃろう?ここが、色彩の国、花染国(はなぞめこく)じゃ。」


@萌黄

「ものすごく・・・カラフルなんだね。」


@常盤

「からふる・・・??ふむ、この国は色の元になる原料が大量にあってな。数え切れないほどの色を作り出すことが出来る。萌黄、お主に似合う着物も、わしが見立ててやろう。」


@萌黄

「私はいいよ・・・」


 慌てて遠慮するが、常盤は私の言葉を聞いていない。


@常盤

「良い仕立屋があるのじゃ。お主のその格好はこの国では目立ちすぎるからの。わしは嫌いではないが。」


 そう言われてみれば確かに、町行く人々の服装も洋服ではなく、着物のような物を着ている。

 洋服姿の私は、町の人の好奇の視線を集めてしまっているようだった。


○色鮮やかな反物がずらりと並んだ呉服屋の中


@常盤

「主人。久しぶりじゃの。すまんが、この娘に服を仕立てもらえぬか。」


@店主

「これはこれは常盤様。美しい女人をお連れで。お任せください。」


@常盤

「なかなかの器量の娘じゃろう。ますます美しく見えるような、とびきりの物を頼むぞ。色は・・・そうじゃの、わしの名にちなんで常盤色にしてもらおう。」


@店主

「それは良いですな!常盤色をひきたてつつ、金の刺繍を施してはいかがでしょう。」


@常盤

「うむ!相変わらずよい感性をしておる。」


 私を置いて楽しそうに店主と盛り上がる常盤を、私は呆気にとられて見ていた。

 常盤が言ってたように、この国には色が溢れているのだろう、店内に置いてある反物はどれも色鮮やかで、絶妙なバランスの美しさだった。


@常盤

「萌黄、見るがよい。」


 突然常盤に呼ばれて慌ててそちらを見ると、


@萌黄

「わぁ・・・素敵。」


 店主が持っている画用紙に描かれているのは、常盤色、と呼ばれるらしい品のいい緑色を基調として、さりげなく金の刺繍や淡いピンクの花柄、黄色のレースのような透かし柄の入った美しい着物だった。


@常盤

「気に入ったようじゃな。主人、これで頼む。」


@店主

「はい。お任せを。」


 思わずそのデザイン画に見入った私を見て満足そうに頷くと、常盤は手際よく注文手続きを済ませた。


@常盤

「数日で仕上がる予定じゃ。楽しみにしておれ。」


 一方的に着物をプレゼントされることになり、なんて強引かと思ったものの、その美しい着物の仕上がりは素直に楽しみだった。


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