第6話 心の距離


○薄い月明かりの差し込む暗い森


@ノエル

「すっかり暗くなっちゃった・・・」


私は、両手いっぱいに書類をかかえてクロウ達の暮らす山小屋への道を早足で歩いていた。

陽が落ちて夜の気配に包まれた森は暗く、いつも以上に歩きにくい。

転ばないように慎重に足を運んでいると・・・


@クロウ

「おい」


@ノエル

「きゃあ!!!」


突然後ろから肩を掴まれ、あまりの驚きに後ろにのけぞってしまう。


@ノエル

(転んじゃう・・・!)


手に持っていた書類だけは何としても落とさないように、両手に力を込め、覚悟を決めた。

・・・けれど、冷たい地面にたたきつけられるはずだった体は、温かい何かに包まれて、少し傾いただけだった。


@ノエル

「・・・あれ?」


@クロウ

「お前は、何をしているんだ・・・」


呆れたようなクロウの声が頭上に降って来た。


@ノエル

「クロウ!!」


私の体は、クロウに後ろから抱きかかえられるような形で支えられていた。

顔を上げると、月明かりに照らされて、より白く神秘的なほどに美しいクロウの顔が、唇が触れそうなくらい近くにあった。


@ノエル

「あ・・っごめん!!・・・ありがとう。」


驚きと恥ずかしさで顔が熱くなり、慌ててクロウから離れる。


@ノエル

(暗くて良かった・・・今絶対顔真っ赤だ・・・)


@クロウ

「あぁ・・・いや、驚かせたのなら、悪かった。・・・何をそんなに大事そうに持っている?」


クロウの視線が私の手元に注がれる。


@ノエル

「これ?これね、クロウに渡したくて来たんだけど・・・思ったより遅くなっちゃって。」


私は持っていた書類の束をクロウに渡した。


@ノエル

「クロウ、私の話は信じるって言ってくれたけど、本当はまだ半信半疑なんじゃないかと思って。またおせっかいって言われるのは分かってるんだけど・・・」


@クロウ

「これは・・・署名?」


@ノエル

「そう。クロウに町の人の気持ちを直接感じて欲しいんだけど、クロウは全然色彩の町に行こうとしないから、こうするしか思いつかなかったの。」


クロウに渡したその書類は、数日前から町中を回って集めた、色彩の国を愛する人達の手書きの署名。

そこには町の人たちのクロウへの、『城へ戻ってほしい』という切なる思いも綴られていた。


@ノエル

「やっぱり、おせっかいかな?」


@クロウ

「・・・1人で集めたのか?」


@ノエル

「ううん。町の人たちがすごく協力的で、たくさん手伝ってくれたから。」


@クロウ

「・・・。」


クロウは、真剣な瞳で書類をぱらぱらとめくる。


@ノエル

「クロウ、あなたは、色彩の国に必要なんだよ。存在すべきじゃないなんて、誰1人そんなこと思ってない。」


@クロウ

「・・・お前は・・・なぜそこまでして俺に関わろうとする?なぜ俺なんかのために、そこまで出来る?」


@ノエル

「だってそれは・・・私にとってもクロウは必要な存在だから・・・おせっかいって言われても、迷惑でも、どうしても放っておけなくて・・・」


@クロウ

「とんだお人好しだな。」


そう言って、クロウは私の頭を優しくなでた。


@ノエル

「・・・え・・・?」


思ってもみない行動に心臓が飛び跳ねる。


@クロウ

「おせっかいじゃない。・・・迷惑だとも、もう思わない。お前があまりにもいつもまっすぐで、一生懸命だから・・・調子が狂う。」


@ノエル

「クロウ・・・」


@クロウ

「この森は、暗い。だから居心地が良かった。何も見えない夜が一番安心できた・・・なのに」


クロウが空を見上げる。

私もつられて見上げると、木々と雲の間からのぞく満月が優しく私たちを照らしていた。


@クロウ

「・・・お前みたいだな。」


@ノエル

「え??何が?」


@クロウ

「あの月。真っ暗なはずの森の夜に光を与える。」


@ノエル

「それって・・・どういう意味?」


@クロウ

「さあな・・・」


私とクロウは無言のまま夜空を見上げる。静かで美しい夜だった。


@クロウ

「・・・ありがとう、ノエル。」


ポツリ、と聞こえたクロウの言葉に驚いてクロウを見る。

月の光がクロウを背中から照らし、表情はわからない。けれど、いつになく優しいその口調に、クロウとの距離が近づいたように感じられる。


@ノエル

「・・・どういたしまして。」


じっと月夜を眺める2人の間を、優しい夜風が吹きぬけていった・・・。


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