第4話 王子の視界


○カラフルでにぎやかな街


@イリス

「お待たせ。ごめん、遅くなってしまって・・・」


イリスが少し息を弾ませて駆け寄ってくる。

今日は珍しくお城の外でイリスと待ち合わせをして、色彩の街を案内してもらう約束をしていた。


@ユリア

「気にしないで!むしろ、忙しいのに良かったの??」


@イリス

「もちろん。今日は俺も楽しみにしていたんだ。」


無邪気に笑うイリスに、胸がドキドキする。


(これって、デート・・・だよね?)


初めてお城の外を歩く色彩の国の風景は、町中が綺麗な花であふれていて、気持ちが穏やかになるのを感じる。


@ユリア

「ここは、本当に美しい国・・・」


@イリス

「そうだろう?気に入ってもらえたなら何よりだよ。今日は、もっと素敵な場所をたくさん見せてあげるよ。さぁ、おいで。」


そう言うとイリスは、ごく自然な動きで私に手を差し伸べた。


@ユリア

「あ・・・」


@イリス

「エスコートしましょう。姫。」


そのあまりにスマートで王子らしいしぐさに思わず頬が熱くなる。

それを悟られないように少しうつむいて、イリスの手を取った。


@イリス

「こういうのは、嫌い?」


@ユリア

「そんなこと、ない・・・あの、慣れなくて。」


慌てて首を横に振ると、イリスはいつものように優しく微笑んだ。


@イリス

「今日は、ユリアに楽しい時間をプレゼントするから、リラックスしてて。」


@ユリア

「うん・・・ありがとう・・」


(リラックスって言われても、そんな近くで囁かれたら、余計緊張するけど・・・)


それからイリスは、本当に色々な素敵な場所を教えてくれた。

陽のあたるウッドデッキのある図書館、色々な花の紅茶を楽しめるカフェ、焼き立てパンがいつも食べられるベーカリー、動物がたくさんいる公園・・・。

そのどこもが本当に美しくて、そして何より私には、イリスと一緒にいる時間が楽しかった。


○夕焼けの湖


少し陽が落ちてきて、私たちは太陽が映り込む湖に浮かぶ小さな手こぎボートに乗ることにした。


@ユリア

「意外。イリスってこういうボートとか乗るんだ。」


@イリス

「そう?俺、意外となんでもできるよ。」


そう言って冗談っぽく笑うイリスの漕ぐボートは、とてもゆるやかで穏やかに湖の上を滑る。


@ユリア

「夕焼け・・・すごく綺麗。」


@イリス

「この景色は絶対に見せたかったんだ。・・・俺には見えないのだけどね。」


@ユリア

「あ・・・」


お城で聞いた、イリスの告白を思い出す。イリスは眼が悪いって話だったけど・・・


@イリス

「この前の話の続きを、聞いてもらえるかな?」


私は、夕焼けに染まるイリスの彫刻のような美しい顔を見つめてうなずいた。


@イリス

「俺が視力を失ったのは、妹を失った日。ルシエルも、この眼の光も・・・奪われたんだ。たった一瞬で。」


@ユリア

「奪われた??」


@イリス

「そう。奴は・・・俺は「魔女」だと思っている。2年前の、ちょうど今ぐらいの時期の、星の綺麗な夜だった。俺とルシエルは城の展望台から星を眺めていた。突然、空から光が落ちてきたんだ・・・始めは流星だと思っていたのだけれど・・どんどん近付いてきて、それが人の形をしていることがハッキリと見えた、次の瞬間。全てが真っ白な光に包まれた。今なら分かる。あれは・・・呪術というやつだね。」


@ユリア

「呪術・・・」


@イリス

「その光が消えてようやく目を開けた時、目の前でルシエルが倒れているのが見えて、慌てて駆け寄ろうとしたことまでは覚えている。でもそこで意識が途切れているんだ・・・気がついた時には自室のベッドの上に横たわっていて、レイラから、ルシエルが息を引き取ったことを聞かされた・・・」


つらそうに言葉を紡ぐイリスの手を思わず握ると、イリスもその手をぎゅっと握り返してきた。


@イリス

「そこで違和感に気づいたんだ。何も見えない。目を開けているのに。ただ、光は感じられる。そしてそこに誰がいて、何をしているのか、今自分がどこにいてどんな状態なのか、全て『分かる』んだ。」


@ユリア

「見えないのに、『分かる??』視力意外の部分で見ているということ?」


@イリス

「色彩の国の王家には、代々伝わる特殊な能力がある。視力に関係なく、全ての人、物の持つ『色』、つまりオーラを見ることのできる『色才』といわれる力。何が直接の引き金になったのかはわからないけれど、俺はどうやらその力に目覚めることが出来たらしい。」


@ユリア

「そんな力が・・・!!だから、生活をしていても視力が悪いようには見えなかったの」


@イリス

「そういうことだ・・。このことは、城の人間にも、誰にも話してはいない。ただ、ユリア・・・君だけに、知っていてほしいと思った。」


@ユリア

「そんな大切な話を私に・・・ありがとう。」


胸の奥がじーんとしびれるのを感じる。


@イリス

「俺には、何も見えない。だからこそ、全てを感じることができる。人の本質もね・・・。

『見える』んだよ。ユリア、貴方は・・・他の誰とも違う。」


イリスの真剣な眼差しに鼓動が速くなる。

一体彼の目に私はどう『見えて』いるのだろう・・・

イリスの顔が近付く。私もイリスのその不思議な瞳に吸い寄せられるように無意識にイリスに近付いていた。

お互いの前髪が触れるほど近付いた時、イリスは我に返ったようにぱっと私から離れた。


@イリス

「ごめんね。そろそろ帰ろうか?」


@ユリア

「あ、う、うん・・・」


気がつけば夕日もずいぶん沈んで、辺りは暗くなり始めていた。

私は、まだドキドキが止まらない胸を押さえながら、イリスにエスコートされてボートから降りる。

私たちはどこかぎこちなく顔を見合わせて笑いあい、城への道を帰って行くのだった・・・。


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